それから暫く経った頃であった。真理子と満子の様子が変わり始めた。変な男が出入りするようになってその男と話すようになってから満子はまた家に居る日が多くなった。瑞希の連れてくるその男は掴みどころが無い。だが嫌な感じがした。時々周りを見回すその目の中にまるで囚われるような感じがするときがある。厄介事が増えたように智代は感じた。だがその間も真理子はますます変貌し、満子を甚振る事をまるで楽しんでいるかのように見える事さえあった。そうして不思議なのはその真理子からそれを止めようともがいている真理子の姿も見えるのだ。まるで真理子が二人いるようである。憎しみに突き動かされている真理子と祖母を慕う真理子。まるで違う顔を持っているように智代には見えた。そして智代は勿論、前者の真理子が好きであった。あの真理子ならこの家に居ても何の害も無いように思えた。そんな真理子の暴言や仕打ちに満子黙っては耐えていた。そうして少しずつ様子が可笑
牙齒美白しくなっていった。時々、呆けた様にボーっとしている。真理子が何かを言ってもまるで聞こえないかのような様子である。真理子の変化についていけずとうとう壊れてしまったのかと思った。でもその方が好都合かもしれないと思った。満子の意志が働いていない時の方がその中に長い間入っている事が出来るという事に智代は気が付いた。ただそうでない時の満子には前よりもっと入り難くなった。なんだか智代には分らない意思の力が働いているようである。それは満子の真理子を守りたいと言う愛情であったが愛と言うものを全く知らない智代には理解不能な感情であった。
何日もその様子を見ていて智代はたまにその白い影の輪郭が見える事があった。それは小さな男の子のように見えた。もしかして紗江
兒童健康子が産み落とした胎児の亡霊かとも思ったがそんなにはっきりした者にも見えない。しかもいつも真理子に纏わり付くように傍にいる。見れば見るほどその影は真理子から発せられているようにしか見えない。
(なんなんだ、あの女は。まるでいろんな顔を持っているようだ。気味の悪い奴だ。)
智代には真理子が得体の知れない生き物のように思えた。
「で、何の話?」
腕を組んであの変な男と真理
兒童餐椅子が相対している。瑞希も杏奈も真理子を見守るように見ている。その横には小さな女の子が居る。まだ幼そうなのにやけに鋭い目をしているように智代には見えた。その女の子は顔を上げて智代の方を見た。
「ん?」
(こっちを見た?)
智代が動くとその視線が同じように動いた。
(まさか、本当に見えているのか?)