この夏、吹きまくっている文学の風は、村上春樹の『1Q84』の風だ。
『ノルウェイの森』をはじめ、『ねじまき鳥クロニクル』や『海辺のカフカ』など、村上作品はほとんど読んできたが、最新作の『1Q84』はまだ読んでいない。
新刊書は高価なので、いつも図書館から借りて読むことにしているのだが、『1Q84』は予約が多すぎて、ぼくの順番はまだ回ってこない。
たぶん、この風がすっかり吹きやんだ頃、ぼくの新しい小説の体験は始まることになるのだろう。
村上春樹の処女作は『風の歌を聴け』だ。
大学生の「僕」が里帰りして過ごした、夏休みの数日間が淡々と描かれている。
それから30年後に書かれた『1Q84』からは、どんな風の歌が聴こえてくるのだろうか。
どんな匂いの、どんな色の風が吹いてくるのか。
草の香りや木の匂いもするだろうか。
地球の匂いはするだろうか。
軽井沢で、地球の匂いを嗅いで歩いたぼくの足は、いまも地球から数ミリ浮遊したままだ。