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空のような目

先輩もやっぱり

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先輩もやっぱり

「社会人になりたての頃にね、野暮用だったんだけど初めて東京に行ったんだ。その時に久しぶりに学生時代の先輩に会って、そのまま銀座の鮨屋に連れてってもらったことがあるんですよ。確か先輩も社会人になって4、5年ってくらいの頃で、もちろんまだおいそれと銀座の店に行けるような立場じゃなかったんだけど、『接台北機票待でよく行く場所だから』って言うもんですからね、言われるままついていったんですよ。先輩がどれくらいその店に行っているのか知らなかったけど、僕は高い鮨屋さんになんて行ったことがなかったし、ましてや『銀座にある鮨屋』なんて聞かされると、さぞかし値段の高い店なんだろうなあって思って自分の財布の中身を確かめたりしたんですよ。そしたら先輩が『今夜は俺に任せろ』って。それでいざその店に着いて中に入ったら話ではよく聞いていたんだけど、やっぱりどこにも値段が書いてなくてね、全部の札に『時価』って書いてあるの。しかもネタの名前は、ほぼ全部漢字。マグロは『鮪』か『鮪赤身』だし、イカは『烏賊』、カッパ巻は『胡瓜巻』って具合にね」
 店長は話しながら俺の目の前の宙に、右手の人差し指でそれらの漢字を丁寧になぞった。でも俺から見るとそれは表裏逆になるから、店長がそれらを正しくなぞれているかどうかはわからなかった。
「先輩が『遠慮せずに何でも好きなものを注文しろ』って言ってくれたんだけど、何を注文したらいいかわからなくてね。そりゃあ普通のどこ保濕針 にでもある鮨屋だったら、『トロ』だとか『コハダ』とか『イクラ』とか自分の好きなものを注文するけどさ、さすがに『時価』ってしか書いてない店だと、いくら先輩がご馳走してくれるって言っても躊躇しちゃうよね。ましてや『アボカド巻』なんて言ったりしたら、張り倒されるんじゃないかって思ったりもして、それで一番安いだろうと思って『胡瓜巻』を注文したの。で、その後は先輩が注文するのと同じものを注文していたんだけど、先輩もやっぱり高そうなのは避けていたみたいでね、二人して安そうなものばかり注文していたんですよ。そしたらね、そこの大将が来てね、『今日は北海道のいい雲丹が入っていますけど、いかがですか?』って僕に訊いてきたの。」
「そんな店で食べるウニなんて、さぞかし高いんでしょうね。私にはその値段が想像だにできませんけど」
「僕もできませんでした。たぶん僕らが値香港酒店式公寓段の安いものばかり注文するもんだから、これじゃあ商売にならないと思った大将が勧めてきたのかなあって思って、それですぐに先輩を見たんだけど、心なしがその顔が引きつっているように見えてね、こりゃあとても『ください』とは言えないなあって思ったんです。先輩も『ウーン』って唸りだしてね」
「そりゃあそうでしょう。下手したら一貫数千円くらいするんじゃないんですか、銀座だったら」
「うん。そしたら大将がいなくなってね、諦めたかなって思っていたら、しばらくしてまた目の前にやってきて、いきなり『へいお待ち』って言って僕と先輩の前に見事な雲丹の軍艦巻きを出してきたの」
「それはまた高飛車な……」
「僕もそう思いました。『これが銀座の鮨屋なんだ』ってね」
「それで文句とか言ったんですか?」
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